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織田信長が殺された本能寺の変を盗賊の石川五右衛門を主役にして書いてみました。「藤吉郎伝」の続編としてお楽しみ下さい
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2017/05/26 (Fri) 14:43
Posted by 酔雲
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トンビ








 六月三日、夜が明けると同時に安土城から、きらびやかに着飾った女たちが大勢、武装した兵に守られながら、日野城へと向かって行った。

 同じ頃、琵琶湖に停泊していた船から、武装した男たちが次々に上陸し、ほとんど無人と化した城下を荒らし始めていた。

 城から女たちが逃げて行くのに気づき、追い討ちをかけたが、日野から迎えに来ていた蒲生忠三郎の兵の鉄砲に撃たれて引き下がって行った。

 湖賊らは女たちを諦め、城へと向かった。大手門を打ち破り、城内へ潜入し、重臣たちの屋敷へとなだれ込んだ。すでに、それらの屋敷も数人の者が守っているだけだった。必死に抵抗したが、湖賊たちの襲撃に敗れ、屋敷は荒らされた。

 我落多屋の二階から、マリアとジュリアは遠眼鏡で城を見ていた。

 摠見寺の参道を湖賊たちが登り下りしているのが見える。時々、鉄砲の音が鳴り響き、寺の財宝を抱えた男たちが得意顔して階段を下りていた。

 番頭の久六が薄汚れた腹巻き(鎧)を持って二階に来た。

「ひでえもんじゃ。湖賊どもはやりてえ放題をやっておる。まもなく、ここにも来るじゃろう。お前らも、こいつを付けて草履(ワラジ)をはいていろ」

「戦うのネ?」とマリアは刀を抜く構えを見せた。

「馬鹿言え。戦って勝てる相手じゃねえわ」

「じゃア、逃げるの?」

「違う。奴らに化けて、ここを占拠した振りをするんじゃ。奴らが来たら、部屋の中をメチャメチャにして目ぼしい物を捜してる振りをしろ」

「成程、それは名案ネ」とジュリアは手を打った。

「いくら、仲間の振りをしても、奴らは女に飢えている。その綺麗な顔は汚しておいた方がいいぞ。着物もな。ついでに部屋の中も汚しておけ」

 マリアとジュリアは庭に飛び出し、井戸水を撒いた土の上をキャーキャー言いながら転がり回り、泥だらけになって、土足のまま二階に上がった。腹巻きを身に付けると面白がって部屋の中を荒らし回った。

 一階でも山から下りて来た修行者たちが武装して、部屋の中を荒らし回っていた。

 ガラクタが積んであった店の中は足場もない程、メチャクチャになった。

「城の方は誰もいなくなったのか?」と腹巻き姿の藤兵衛が店に顔を出して久六に聞いた。

 革の鉢巻きを着け、長い太刀を佩き、いつもの藤兵衛とは違って勇ましく見えた。人のよさそうな目付きまでもが鋭くなっていた。

「いえ。町奉行の木村次郎左衛門が守ってます。湖賊たちも黒鉄(クロガネ)門は抜けられないでしょう。藤兵衛様のそういう姿、久し振りに見ました。やはり、貫録がありますね」

「ナニ、まだまだ、若え者には負けんわ。それで、天主は大丈夫なんじゃな?」

「はい、長谷川屋敷も。ただ、次郎左衛門の兵よりも湖賊たちの方が多いですからね。今の所は城内にある重臣たちの屋敷の略奪に忙しいので、黒鉄門を攻める事はないでしょうが、略奪が終われば、天主、本丸、二の丸を狙うでしょう」

「うむ。その前に明智の兵が来るかもしれん。奴らが来たら黄金は奪われる。今晩、決行した方がよさそうじゃな」

「分かりました」

 藤兵衛はよしと言うにうなづくと屋敷の裏にある茶室に向かった。

 茶室にはおさやがいて、部屋の中を荒らしていた。

「メチャメチャにするのも楽しいわ」とおさやは笑った。

「これも破いていいのネ?」と床の間の掛け軸を引き裂いた。

「アッ!」と藤兵衛は驚いて、おさやから破けた掛け軸を奪うと、「これは大旦那様の‥‥‥」とつぶやいた。

「エッ、これはまだ取り替えてなかったの?」おさやは急に蒼ざめた。

「嘘じゃよ」と藤兵衛はおさやを抱き締めた。「二束三文のガラクタじゃ」

「騙したわネ」おさやは笑いながら、藤兵衛の肩をたたいた。

 藤兵衛の家族が実家に避難してから、おさやの願いがかない、藤兵衛はおさやのトリコになっていた。先程、久六に褒められた厳しい顔付きも、おさやの前ではデレッとだらしがなかった。

 しばらくして、湖賊が我落多屋にやって来た。

「おーい、何かあったか?」と声を掛けて来たので、久六がガラクタを引っ繰り返しながら、「何もねえわ」と答えた。

「あるわけねえ。店の名が我落多屋じゃ。ガラクタしかあるめえ」と笑いながら小野屋の方に向かった。

 戸は打ち壊され、十人近くの者が小野屋に入って行った。

 その後、何度か我落多屋に来た者があったが、店の奥の屋敷まで荒らされ、蔵も開けっ放しになっているのを見ると、首を振って、違う場所へと向かった。皆、明智の軍勢が来る前に、盗めるだけ、値打ち物を盗もうと血眼(チマナコ)だったので、誰かが荒らした後の家には興味なかった。

 藤兵衛を初めとして店の者たち、十八人の修行者、マリアとジュリアは荒れ果てた我落多屋に潜み、城下の情報を集めながら暗くなるのを待っていた。

 日が暮れると城下も静かになり、湖賊たちは好き勝手な屋敷に腰を落ち着け、酒を飲み始めた。向かいの小野屋にも五、六人の者たちが騒いでいるのが、我落多屋の二階から見えた。

「まだダメです。もう少し待った方がいい」と長谷川屋敷まで偵察に行った久六が戻って来て言った。

「参道には人っ子一人いねえが、摠見寺の境内では大勢の者たちが騒いでます。どこから連れて来たのか、女たちも何人かいたわ。酒を飲んで騒いでるから真夜中には静かになるでしょう」

「長谷川屋敷の方はどうじゃ?」と鉄砲を持った藤兵衛が聞いた。

「まだ、襲われてはいないようです。静まり返っていて、人がいる気配はありません。ただ、あそこから琵琶湖を見下ろして驚いたんですけど、湖賊たちの船が城を囲むように並んでます。あれじゃア、孫一の船が来たとしても、黄金を運ぶのは難しいですね。船の上から丸見えになりますよ」

「うーむ。明智の大軍が来たら、奴らも引き上げて行くと思うがのう」

「それも難しいですよ。奴らが明智とつながってる可能性があります。信長を恨んでいた者たちは皆、明智と結ぶでしょうから」

「そうか、確かにその可能性はあるのう。状況に応じて作戦を変更しなくてはならんな」

 それから二時(約四時間)後、藤兵衛に率いられた修行者たちは長谷川屋敷に向かった。勿論、マリアとジュリアも従っている。

 一行は静まった摠見寺の裏を通り抜け、黒鉄門の脇から山中に入り、長谷川屋敷の石垣を登った。久六が屋敷内を調べたが誰もいなかった。

 裏庭の茶室から抜け穴に入り、ジュリアの持っていた鍵で扉を開け、天主の地下蔵から次から次へと黄金の詰まった箱を長谷川屋敷の下まで運んだ。百箱余りの黄金をすべて運ぶのに二時近くも掛かり、もうすぐ、夜明けが近かった。

 とりあえず、運べるだけ運び出そうという事になり、十八人の修行者と店の者たちに一箱づつ持たせて運ばせた。マリアとジュリアも運ぶと言い張ったが、二人には重すぎた。モタモタしていたら、湖賊に襲われるので諦めさせた。

 途中、寝ぼけた顔の湖賊に声を掛けられた。

「今日も忙しくなるぞ。今のうちに獲物を船に運ぶんじゃ」と久六は言ってごまかした。

「おう、そうじゃな。わしらも運ぶか」と目をこすりながら摠見寺の方に消えた。

 我落多屋に運んだ黄金二十三箱はガラクタの下に隠した。

「二十三箱というと何枚じゃ?」と藤兵衛が聞いた。

「六千九百枚よ」とおさやが答えた。

「ネエ、黄金六千九百枚っていくらなの?」とジュリアが聞いた。

「六万九千両。およそ、十万貫文てとこネ」

「十万貫‥‥‥スッゴーイ」

 ジュリアとマリアは顔を見合わせて、目を丸くした。

「オスピタルも孤児院も建てられるのネ?」

「当然よ」

「スッゴイ! 早く、お山の砦に運んだ方がいいんじゃない?」

「ダメじゃ」と藤兵衛は泥だらけの足を拭きながら言った。「今、そんな事したら、湖賊らに奪われてしまうわ。奴らが引き上げるまで待つ。ここに隠しておいた方が安全じゃ」

「そうネ。あの人たち、いつまでいるの?」

「さあな、分からん。盗む物があるうちはいるじゃろうな」

「あたしたちは、それまで、ずっと、ここにいるの?」

「わしは小太郎と孫一が来るまではここにいる。修行者たちは一旦、山に返すから、お前たちも一緒に行ってもいいぞ」

「あたしは小太郎様の帰りを待つ」とジュリアは言った。

「あたしもここにいる」とマリアも言った。「ネエ、勘八様はどこ、行ったの?」

「長浜にいるはずじゃ。向こうも大騒ぎじゃろう」

「大丈夫かしら?」

「おめえを残して、奴が死ぬ事はあるめえ」と久六が冷やかした。




 長浜城下は長浜の北にある山本山城の阿閉淡路守(アツジアワノカミ)の兵によって占拠されていた。

 淡路守は藤吉郎に竹生島の利益を奪われた事を恨み、十兵衛が信長を殺した事を知ると、すぐに十兵衛に呼応して長浜城下を襲撃した。しかし、すでに城内にいた藤吉郎の奥方、お祢を初めとして、留守を守っていた者たちは皆、逃げ去っていたため無事だった。夢遊の家族たちも、城下にある我落多屋の者たちと一緒に伊吹山麓に逃げ去っていた。




 備中と備前の国境にいる夢遊たちも日が暮れる頃より忙しくなっていた。

 街道は蜂須賀小六の兵によって封鎖され、脇道や山中にいたるまで、夢遊の配下が見張っていた。怪しい者はすべて捕まえ、無理に通ろうとする者は殺しても構わんと夢遊は命じていた。

 吉備(キビ)の中山の山裾に陣を敷いていた夢遊のもとに怪しい者たちが次々に運ばれて来たが、京都の異変を知っている者はいなかった。それでも備中に通す事なく、縛り上げて小六のもとに送った。

 戌(イヌ)の刻(午後八時頃)過ぎ、新五が息を切らせて、源右衛門に連れられて夢遊の所にやって来た。

「どうした? 信長は死んだんじゃな?」

 夢遊は期待を込めて新五を見つめた。ところが、新五は首を振った。

「ナニ、失敗したのか?」

「いえ、違います。二日の未明、十兵衛の軍勢が京都に攻め込んだ後、すぐに、こっちに向かいました。あれから、すぐに本能寺は襲撃されたに違いありません」

「そうか。十兵衛が京都に攻め込んだのは確かなんじゃな?」

「はい」

「となると、間もなく、本能寺の襲撃を見た者たちがやって来るな。源右、頼むぞ」

 源右衛門は持ち場に戻って行き、夢遊は小六の所に新五を連れて行って報告させた。

 それから一時(二時間)後、十兵衛からの密書を持った者が名越山を越えようとして捕まった。名越山を越えれば藤吉郎の陣だった。毛利方に行くはずの使者が間違えて、藤吉郎の陣に向かっていた所を捕まったのだった。この使者によって、信長の死は確実となり、藤吉郎は至急、毛利との和睦をまとめるために動き出した。

 子(ネ)の刻(午前零時)頃、京都の宗仁からの使者がやって来て、詳しい状況を知らせてくれた。信長だけでなく、信長の長男、信忠も殺され、信長の小姓衆や馬廻衆もほとんどが殺されたとの事だった。

 その後、密書を持った者はいなかったが、国境突破を試みる山伏や忍びの者が何人か殺された。

 『信長死す』との知らせが来ると藤吉郎は直ちに、毛利方の使者、安国寺恵瓊(エケイ)を招き、講和の話をまとめた。

 翌日、六月四日の巳(ミ)の刻(午前十時頃)、高松城の城主清水長左衛門は湖上に舟を漕ぎ出し、藤吉郎の見守る中、自害して果てた。その日のうちに毛利方と誓紙を取り交わして和睦は成立した。

 藤吉郎としては直ちに引き返したかったが、毛利に怪しまれるので、毛利の軍勢が引き上げるのをジッと待っていた。その間も、夢遊らは国境を守り続け、京都の異変を知っている者を何人も捕まえていた。

 その日は、城内にいる者たちを救出しているうちに日が暮れた。

 その夜、毛利の陣中に忍び込んでいた夢遊の配下が慌てて、夢遊のもとに飛び込んで来た。毛利が信長の死を知ってしまったという。

「馬鹿な」と夢遊は疑った。

「確かです。兵たちには知らされていませんが、武将たちには知らされた模様です。和睦がなった今も、いつでも出撃できる態勢を取って待機しています」

「どこから漏れたんじゃ?」

「分かりません。街道が封鎖された事を知って、遠く山中を迂回したのではないかと」

「うむ、かもしれん‥‥‥とにかく、藤吉郎に知らせなければならんな」

 夢遊は新五を呼ぶと、忍びの頭を全員集めるように命じ、藤吉郎の本陣へと向かった。




 その夜、新堂の小太郎が雑賀から安土に戻って来た。

 途中で信長の死を知っていたが、城下の有り様を見て、しばし呆然となる程、驚いた。まともな家は一軒もなかった。台風が通過した後のように町は荒れ果てていた。

 ジュリアの事が心配になり、急いで我落多屋に向かうと我落多屋もひどい有り様だった。

 小太郎は大声でジュリアの名を叫びながら、屋敷の方に回った。

 メチャクチャに荒らされている屋敷を眺め、「遅かったか‥‥‥」と呆然と立ち尽くしていると、「小太郎様」とジュリアが二階から降りて来て、小太郎に抱き着いて来た。

「無事だったか‥‥‥」小太郎は目を潤ませながら、ジュリアを見つめた。

「大丈夫よ。あたしは元気よ」ジュリアは小太郎の頬を両手で撫でた。

「よかった‥‥‥それにしてもひでえな。こんなひでえ事になるとは思ってもいなかったわ」

「おう、帰ったか」と藤兵衛とおさやが顔を出した。

「孫一は来たのか?」と藤兵衛は聞いた。

「大津で別れた。明日には船を盗んで、こっちに来るんじゃねえのか。黄金の方は大丈夫なのか?」

「長谷川屋敷の下で眠ってるわ。ただのう、城の回りは湖賊の船で埋まってる。孫一の船が来たとしても、長谷川屋敷から運び出すのは難しいぞ」

「城下を荒らしたのは湖賊だったのか‥‥‥」

「奴らは好き勝手に暴れ回っておるわ。誰も止める者がおらんからの」

「そうか‥‥‥とにかく、休ませてくれ。疲れたわ」

 小太郎はジュリアに連れられて、二階へと上がった。




 六月五日、藤吉郎の兵と毛利の兵は高松城を埋めている湖を挟んで睨み合っていた。もし、毛利が攻めて来れば、水をせき止めている堤防を壊して、水攻めにして引き上げる作戦を藤吉郎は立てていた。しかし、敵の方が兵力が上回り、無事に逃げる事ができたとしても、十兵衛を相手に弔い合戦をする事は難しかった。

 藤吉郎は陽気な顔で家臣たちを励ましながらも、心の中では、毛利が引き上げてくれる事を必死に神に祈っていた。

 夢遊らは国境閉鎖をやめて、毛利方の動きを探ると共に、吉備の中山に陣を敷いていた。この山を敵に取られれば、藤吉郎は退路を塞がれ帰れなくなってしまう。絶対に敵に渡してはならない重要な地点だった。

 毛利の軍勢が攻め寄せて来れば、百人程度の忍びが守っている山など一たまりもないが、敵を刺激させないために、藤吉郎の軍勢をここに移す事はできなかった。夢遊はあちこちに罠を仕掛け、命懸けで、この山を守る気でいた。

「毛利は攻めて来るかしら?」とお澪が心配顔で聞いた。

 お澪も配下を連れて、児島半島から戻って来ていた。

「攻めて来れば藤吉郎は敗れる。わしらも皆、討ち死にじゃ。そうなったら、そなたは無事に逃げてくれ」

「あなた、死ぬ気なのネ?」とお澪は夢遊の顔を覗いた。

「いつでも、死ぬ覚悟はできておる」と夢遊は笑った。

 お澪の肩を抱くと、「ただ、そなたをもう一度、抱いてから死にたいのう」と言った。

「今晩、抱いてよ」とお澪は肩に置いた夢遊の手を握った。

「おいおい、そう簡単に言われると、わしは明日、死ななけりゃならなくなるぞ」

「ダメよ、死んだら。あたし、あなた以上の男を捜さなくちゃならないじゃない」

 夢遊はお澪の腰を両手で抱くと、「他の男を捜すのか?」と聞いた。

「あなたが死んだらネ‥‥‥でも、そんな人、いないでしょうから尼になるわ」

「尼になるのか‥‥‥勿体ねえのう」

 夢遊はお澪の長い黒髪を優しく撫でた。

「だから、死なないでよ」

「うむ」
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