織田信長が殺された本能寺の変を盗賊の石川五右衛門を主役にして書いてみました。「藤吉郎伝」の続編としてお楽しみ下さい
遅い春
1
抜け穴の事も、狂った信長の事も、帰って来ないお澪の事も、しばらく忘れて、一ケ月間、夢遊は淡路島で暴れ回っていた。暴れたと言っても、人殺しをしていたのではない。信長の大量殺戮を見た後、夢遊はその反発もあって、絶対に人を殺すなと命じていた。
十一月の半ば、めぼしい財宝を奪って夢遊は安土に帰って来た。
紅葉も枯れ落ち、荒涼とした冬景色の中、天主だけが憎々しげに輝いていた。天主を眺めながら、夢遊は穏やかな顔をして、いつものようにフラフラと歩いていたが、いつものように、娘たちに声を掛ける事もなく我落多屋へと帰った。
夢遊の帰りを首を長くして待っている男がいた。
新堂の小太郎だった。小太郎は夢遊が淡路島に向かった二日後、我落多屋に現れ、それからずっと、近くにある大津屋という旅籠屋に滞在しながら、夢遊の帰りを待っていた。
夢遊が帰って来た事を知るとさっそく、小太郎はやって来た。人が変わったのか、遊び人という格好で酒をぶら下げていた。
「景気よさそうじゃの」と夢遊はその姿に呆れた。
花柄模様の派手な袷(アワセ)に白鞘(サヤ)の刀を差して、丈の長い羽織を引っかけ、夢遊の格好とそっくりだった。
「伊賀の掟が消えたからのう。掟なしの生き方がこんなにも面白えとは知らなかったわ。遅すぎた春を今、存分に楽しんでるというわけじゃ」
「仲間があれだけ殺されたというのに、いい気なもんじゃ。無一文じゃなかったのか?」
「ナニ、柏原の砦から銀を少々、拝借した」
「ふん。盗っ人の真似か?」
「いや。柏原まで助っ人に出掛けた報酬じゃ」
「その銀で遊び惚けてるのか?」
「そうよ。毎晩、若え娘っ子に囲まれてな、飲めや歌えと浮かれてるのよ」
おさやがお椀とちょっとした肴(サカナ)を持って来た。
「セニョリータ、なかなかの別嬪(ベッピン)じゃのう」と小太郎はおさやを見て、ニタッと笑った。
「ありがとうございます。でも、そんなお世辞は大旦那様から毎度、聞かされて慣れてますので、何とも思いませんわ。どうぞ、ごゆっくり」
「くノ一か?」と小太郎はおさやの後ろ姿を眺めながら小声で言った。
「ただの奉公娘じゃ」
「わしに隠す事はねえ。あの足の運びは素人じゃねえわ。まあ、いいか、まず、一献じゃ」
二人は酒を酌み交わした。
「信長を殺るんじゃなかったのか?」
夢遊は酒を飲みながら、小太郎のニヤけ面に言った。
「失敗したわ。信長は悪運の強え奴じゃ。道順の奴は捕まって、殺されちまったわ」
「楯岡の道順が死んだのか‥‥‥他の連中はどうした?」
「口ではみんな、仇を討つと言ってるが、実際問題として国を奪われ、家族を連れて食うのもままならん状況じゃ。百地丹波は本願寺を頼って雑賀に向かったわ。南伊賀の奴らは丹波を信じて従って行きおった。わしは伊賀に行く前、雑賀にいたので知ってるが、本願寺ももう終わりじゃな。あっちこっちから門徒が集まって来ている。しかも、下っ端じゃねえ。皆、地方で威張ってた坊主どもじゃ。上人様の機嫌を取るため、毎日、喧嘩しておるわ。それに上人様も親子喧嘩を続けておるしのう。このままじゃ、分裂するな。今の本願寺は信長と敵対する力などまったくねえわ。仲間を蹴落とす事しか考えておらんからの。当然、孫一の奴も本願寺の内部争いに巻き込まれているんじゃ。丹波と一緒に雑賀に行った連中も下らん争いに巻き込まれるわ」
「そうか、本願寺も終わりか‥‥‥」
「北伊賀の奴らはな、頭を失って、バラバラになっちまった。お陰で、わしはこうして、おぬしと酒を飲んでるんじゃが、あの時はわしもこれからどうしたらいいのか分からず、目の前が真っ暗じゃった。家族もみんな殺されちまったしな。死ぬのを覚悟で信長を狙ったんじゃが失敗した。道順は殺され、わしはやっとの思いで逃げ、ここに来たというわけじゃ。おぬしの仲間に入れてもらおうと思ってのう」
「盗っ人嫌えのおぬしが、盗っ人の仲間に入るのか?」
「今の世はな、武士が女子供を平気で殺す時代じゃ。忍びの者が盗っ人になろうと問題あるめえ」
「ほう、考えを変えたのか?」
「変えた。所詮、短え人生じゃ。面白おかしく生きた方がいいと悟ったわ。おぬしの事をふざけた野郎じゃと思っていたが、ようやく、わしにも、おぬしの生き方が分かって来た。こんな格好して、昼間から酒を食らって、娘たちをからかってヘラヘラしてるのも面白え。だがな、わしの目的はあくまでも信長を倒す事じゃ。信長から何かを盗むのなら加わるが、信長の敵から物は盗まん」
「ふん。その前におぬしに聞きてえ事がある。伊賀で聞こうと思ったが、場所柄を考えてやめたんじゃ」
「分かってる。ジュリアの事じゃろ?」
小太郎は酒を飲み干して、溜め息を付いた。
「どうして、ジュリアの後を追ったんじゃ?」
夢遊は小太郎のお椀に酒を注いでやった。
「すまんのう。わしはずっと、信長を見張ってたんじゃ。藤林長門に命じられてのう。長門が誰に信長暗殺を頼まれたのかは知らん。あんな奴に文句も言わずに従っていたわしが愚かじゃった。奴は湯舟の砦が落ちたら、どこかに消えちまったわ、わしらを見捨ててな。わしに信長の暗殺を命じておいて、裏では信長と通じていたのかもしれん」
「未だに行方知れずなのか、長門は?」
「完全に消えちまった。もしかしたら、死んだのかもしれん」
「わしは長門に会った事はねえが、どんな男なんじゃ?」
「どんな男と言われてものう、いつも、薄暗え部屋にいて、ハッキリと面を見た事もねえ。掟を破った者は必ず、殺すと恐れられていたからの。まともに顔を見る事もできなかった」
「そうか‥‥‥配下の者にも顔を見せんとなると余程の忍びじゃな。案外、この城下に潜んでいるかもしれんぞ」
「まさか‥‥‥」と一瞬、小太郎の顔が青くなった。酒を一口、飲むと、「脅かすな」と笑った。
「それで、ジュリアの方は?」と夢遊は聞いた。
「ああ。たまたま、夜中に摠見寺の普請場に行った時、天主の方から土を運んでるのを見つけたんじゃ。おかしいと思って土を調べてみると、その辺の土とは違う。そこで、しばらく見張っていたんじゃよ」
「それはいつの事じゃ?」
「去年の末じゃ。土は毎日のように運ばれ、摠見寺の普請に使われたんじゃ。信長が抜け穴を掘ってるに違えねえと思ったが、確信は持てなかった。抜け穴は天主と摠見寺をつないでるに違えねえと摠見寺を捜したが見つからなかった。思い違えだったかと諦めかけた頃、善次郎が殺されたんじゃ。善次郎が信長に呼ばれて、城内で仕事をしてたのは知ってたが抜け穴と関係あるとは思っていなかった。しかし、善次郎が殺されたと聞いて、わしはピンと来たんじゃ、何かあるとな。それで、善次郎の娘を見張った。思った通り、娘を狙ってる山伏がいたといわけじゃ」
「山伏を殺したのは、おぬしか?」
「そうじゃ。捕まえたが何も知らんので殺した」
「マリアの方もか?」
「ああ、わしの手下が殺った。しかし、奴ももういねえ」
「戦死したのか?」
「ああ。みんな、殺されちまったわ」小太郎は舌を鳴らすと酒を飲んだ。「わしはジュリアを追って雑賀に行き、孫一が動くのを待っていた。孫一がジュリアの話に乗って来れば、奴が黄金を盗んでる隙に、信長を殺ろうと思ったんじゃ」
「孫一が動く前に信長の方が先に動いたというわけじゃな」
「そうじゃ。わしはジュリアを雑賀に残したまま、伊賀に帰った‥‥‥別れがたかったがのう」
「別れがたかった?」
「いい年して、ジュリアに惚れちまったらしい」
「おぬしがジュリアに惚れたのか?」夢遊は急に腹を抱えて大笑いした。
「おぬしだって、わしの事を笑えめえ。聞いたぞ、小野屋の若女将に夢中だそうじゃの」
「まあな。最高の女子じゃ」
「ジュリアだって最高じゃ」
「若えし、日本人離れした顔してるからのう。おい、アソコの毛も赤えのか?」
「おう、柔らけえ赤毛じゃった‥‥‥足がスラッと長くてのう。腰がキュッとしまってるんじゃ」
「うむ、いい体じゃな‥‥‥残念じゃが、ジュリアは消えちまった」
「銀次から聞いた。わしも捜し回ったが無駄じゃった。一体、何者の仕業なんじゃ? まさか、信長に捕まったんじゃあるめえな?」
「その事は銀次に任せてある。わしは今、帰って来たばかりじゃ」
「そうじゃったな。アッ、そうじゃ、忘れておった。土産があったんじゃ」
小太郎は左手で脇差の柄(ツカ)を握ると右手で柄頭をはずして、中から紙切れを取り出した。
「土産じゃ」と得意気に差し出したのはジュリアが持っていた抜け穴の図面の写しだった。
「遅かったのう。伊賀に行く前に持って来てくれれば大歓迎じゃったが、抜け穴の事はもう調べたわ」
「ナニ、調べたじゃと? 穴の中に入ったのか?」
「入った。が、途中までしか行けなかった」
「クソッ! 先を越されたか。わしも信長の奴を殺そうと入ってみたが抜けられなかった」
「おぬしも入ったのか?」
「ああ、ここまでじゃった」
小太郎は図面の中の南蛮文字の所を示した。
「どうやって、池を渡った?」
「苦労したぜ。最初の池は何とか渡れたが、次の池は足場がなくてな。仕方なく、また戻って、奥の方に何かねえかと捜したら、うめえ具合に竹竿があった。孫一の奴が置いて行ったなと思って、そいつを使って、やっと渡ったんじゃ。一人で入るべきじゃなかったとつくづく思ったわ」
「弓矢の仕掛けはどうした?」
「仕掛けは分かったさ。またいで行けば大丈夫だとは思ったが、何かの弾みで飛び出して来たらかなわねえからな、竹竿で紐を押して、矢を全部出した」
「出る時にはちゃんと元に戻したんじゃろうな?」
「当然じゃ。信長の奴に気付かれたら、元も子もねえからな」
「それならいい」
「あの扉の仕掛けは分からねえ、どうするつもりなんじゃ? あれを何とかしねえと天主には行けねえぞ」
「分かってる」
「おぬしの事じゃ、何か考えてるんじゃろ?」
「いや。まだ、何も考えてはおらん」
「まあ、いい。とにかく、わしを仲間にいれてくれ。一人じゃどうしょうもねえ」
「いいじゃろう。だが、当分は仕事をやらん。のんびりしていろ」
「そうじゃな。まだ、懐は暖けえしな。一文無しになったら、よらしく頼むぜ」
小太郎はいい機嫌になって、鼻歌を歌いながら帰って行った。
小太郎が帰ると入れ違いに、職人姿の銀次がやって来た。
「あれが新堂の小太郎ですか?」
銀次は二階から大通りをフラフラ歩いている小太郎を見下ろしながら言った。
小太郎は道行く娘に、「セニョリータ、一緒に遊ぼうぜ」と大声で声を掛けていた。
「あいつ、大旦那様の真似ばかりしてますよ。信長じゃなくて大旦那様をずっと見張ってたんじゃないですか」
「放っておけ。ジュリアの事を奴に話したのか?」
「ええ。でも、抜け穴の事は話してませんよ」
「うむ。それで、何か分かったのか?」
「はい。ちょっと一杯いいですか?」
「ああ」
銀次は小太郎が置いて行った酒をお椀に注ぐと、一息で飲み干した。
「ホッ、うまい酒ですねエ」
「遅い春を謳歌してるんじゃと、あの馬鹿が。ジュリアに惚れたとぬかしおった。色惚けじゃな」
「そういえば、小野屋の女将さんが大旦那様の事をずっと待ってますよ」
「おお、そうじゃ。あの馬鹿が来たせいで、お澪殿の事を忘れてしまったわ。何が分かったんじゃ? 早く、話せ」
「はい。こいつはうめえ」と銀次はまた、酒を注いだ。
「酒は全部、おめえにやるから、早く話せ」
「はい。抜け穴の扉の鍵の事ですが、マリアも知りませんでした。鍵がないと扉が開けられないというと大口を開けて驚いてましたよ。それじゃア、黄金は取れないのって泣きつかれましてね。可愛い女子ですよ、マリアは。勘八が惚れるのも無理ねえですね」
銀次は酒を飲み干すと、また注いだ。夢遊がお椀を差し出すと、「大旦那様もいきますか?」と注いでくれた。
「マリアはいい女子です。色が白くて、顔もいいし、オッパイもピンと張ってて形いいんですよ」
「おめえ、マリアのオッパイ、見たのか?」
「ちょっと、汗を流してるとこを覗きましてね」
「このスケベ野郎が」
「アレ、大旦那様からスケベ呼ばわりされるとは思ってもいませんでした」
「馬鹿野郎!」と夢遊は銀次から酒のとっくりを奪い取った。「そんな事はいいから、肝心な事をさっさと言わねえか」
「えーと、マリアはね、鍵の事なんか、ほんとに知らないんですよ。それでね、マリアから親父さんが親しかった職人を紹介してもらったんです。そして、職人を調べてみたら、なんと、鋳物師(イモジ)が一人、善次郎が殺された同じ日に殺されてたんですよ。驚きましたね。多分、その鋳物師が鍵に関係してますよ。鋳型が残ってないかと捜しましたがダメでした。見つかりません」
「鋳物師も殺されてたのか‥‥‥」
「はい」と銀次は酒を飲み干した。「こいつはうめえな。俺なんか、こんなうめえ酒、滅多に飲めないっすよ‥‥‥その鋳物師ですけどね、善次郎の住んでた職人町じゃなくて、馬場の方に住んでたんで分からなかったんすよ」
「おめえ、酔っ払ったのか?」
「このくらいじゃ、酔わないっすよ。平気です。善次郎の足取りをちゃんと、もう一度、当たってみたんですよ。でも、善次郎から何かを預かったっちゅう者はいませんでした」
「善次郎の住んでた家は、今、どうなってるんじゃ?」
「殺しのあった家ですからね、未だに借り手なんていやしませんよ」
「よし、おめえ、さっそく、その格好のまま、その家を借りろ。そして、天井裏から床下まで、すべて捜してみろ」
「分かりました。あの、夫婦者を装った方がいいでしょ?」
「そうじゃな。その方が怪しまれんじゃろう。おめえ、誰か好きな女子がおるのか?」
銀次は照れくさそうにうなづくと、「実はおときなんで」と言った。
「ほう、おときか。うまく行ってるのか?」
「ええ、まあ。おときはほんとにいい女子なんすよ。おときの‥‥‥」
「一々、おときの事を説明せんでもいい。おときと一緒に暮らしていいから、絶対に鍵を捜し出せ」
「ありがとうございます」
「うまくやれよ」
「はい、大丈夫です。それと図面にあった南蛮文字も調べましたよ。セミナリオに行って聞いて来たんすよ。若い者がいっぱいいるんすけどね、みんな、頭がいいんすよ。たまげやしたね」
銀次は懐から走り書きした紙を出した。
「えーと、『M』はエーミと読んで、『J』はジェータと読むそうです」
「エーミにジェータか。どういう意味じゃ?」
「イロハのイと同じようにそれだけでは意味はないんすよ。南蛮文字もいくつか組合わさって意味のある言葉になるんだそうっす。ただ、何かの頭文字を表す時は一字でも使われるとか言ってやしたね」
「頭文字とは何じゃ?」
「何でも最初の文字を頭文字というそうっす。安土の頭文字はアで『A』と書くんだそうっす。何しろ、奴らの言う事は俺にはよく分かんねえんで」
「それで『エーミ』を頭文字にした物ってのは何じゃ?」
「ええと、頭にム、マ、メ、ミ、モがつく言葉だそうっす」
「ム、マ、メ、ミ、モ?」
「はい。マリアの頭文字は『エーミ』っす。そして、『ジェータ』の方はジだけっす」
「ジュリアの頭文字が『ジェータ』なんじゃな?」
「そうなんすよ。驚きやした」
「やはり、あの二人が鍵を持ってるという事じゃな?」
「そうなんす。そこで、俺は山に行って、マリアに聞いてみたんす。何も預かってはいないって言い張りやしたがね、荷物を全部、見せてもらいやした。マリアの奴、恥ずかしがってやしたけどね、下着までちゃんと調べやした。マリアの奴、色んな色の湯文字(腰巻)を持ってやしてね。驚きやしたよ」
「ほう、おめえの好きな色もあったか?」
「はい、ありやした。今度、おときの奴にも桃色のをさせようと思いやしてね」
「好きにしろ。で、マリアの荷物から何か出て来たのか?」
「それなんすよ。善次郎が彫ったというマリア観音があったんすよ。綺麗な観音様でしてね、思わず、うっとりしてしまう程なんす」
「おめえ、前にもそんな事、言ってなかったか?」
「はい。でも、前は湯文字まで調べませんよ」
「湯文字なんかどうでもいいわ。さっさと言わねえか」
「えーと、前に調べた時は鍵の事なんか知らなかったっすからね。今回は仕掛けがねえか、よーく見てみやした」
「ふむ、それで?」
銀次はお椀を夢遊に差し出した。夢遊は仕方なく注いでやった。
「なんと、仕掛けがあったんすよ」
「ナニ、あったのか?」夢遊は身を乗り出した。
「これです」と銀次は懐から布にくるまれた物を差し出した。
「この馬鹿野郎!」と夢遊は銀次の頭を殴った。
布の中には、確かに鍵が入っていた。
「すみません。早く知らせようと思ってここに来たんすけど、小太郎の姿を見たら、すっかり度忘れしました」
「うむ、まさしく、これじゃ。南蛮寺の鍵によく似てるわ。でかしたぞ、銀次」
「はい‥‥‥あのう、善次郎の家の件ですが、どうします?」
「なんじゃ?」
「それが見つかれば、あそこに住む必要はなくなったんでしょ?」
「それもそうじゃな‥‥‥まあ、いいわ。おときと一緒に暮らしてえんじゃろ。今回の褒美じゃ。しばらく、のんびり暮らせ」
「ありがとうございます」
「おい。抜け穴の図面の写しは持ってるか?」
「はい」と銀次は返事をしたが、酒のとっくりを抱えていた。
「おめえな、酒も程々にしねえとおときに嫌われるぞ」
「いえ、今日は特別ですよ。鍵を見つけたのが嬉しくって」
銀次の出した図面を見ると『M』の印のあるのは天主の下だった。
「なんてこった。こいつはあそこの鍵じゃねえ。多分、地下の蔵に入る鍵じゃろう。これがあっても、あそこの扉は開かねえわ」
「アッ、忘れてやした。ジュリアも同じような観音像を持ってるって、マリアが言ってやした」
「やはり、ジュリアを捜さなくちゃなんねえのか」
「ジュリアの方は手掛かりはまったくありませんよ」
「ありませんじゃねえ。二人であそこに住んでもいいから、二人でジュリアの行方を捜し出せ、絶対にじゃ。分かったな?」
「はい、お頭」
銀次はまた、殴られた。
「すみません、大旦那様」
謝りながらも、銀次はニコニコしながら酒を飲んでいた。そして、「新堂の小太郎っすけどね、小野屋の女将さんにちょっかい出してるみたいっすよ」と余計な事を言った。
「なんじゃと」と血相を変えて、夢遊は飛び出して行った。
夢遊は酒を飲みながら、小太郎のニヤけ面に言った。
「失敗したわ。信長は悪運の強え奴じゃ。道順の奴は捕まって、殺されちまったわ」
「楯岡の道順が死んだのか‥‥‥他の連中はどうした?」
「口ではみんな、仇を討つと言ってるが、実際問題として国を奪われ、家族を連れて食うのもままならん状況じゃ。百地丹波は本願寺を頼って雑賀に向かったわ。南伊賀の奴らは丹波を信じて従って行きおった。わしは伊賀に行く前、雑賀にいたので知ってるが、本願寺ももう終わりじゃな。あっちこっちから門徒が集まって来ている。しかも、下っ端じゃねえ。皆、地方で威張ってた坊主どもじゃ。上人様の機嫌を取るため、毎日、喧嘩しておるわ。それに上人様も親子喧嘩を続けておるしのう。このままじゃ、分裂するな。今の本願寺は信長と敵対する力などまったくねえわ。仲間を蹴落とす事しか考えておらんからの。当然、孫一の奴も本願寺の内部争いに巻き込まれているんじゃ。丹波と一緒に雑賀に行った連中も下らん争いに巻き込まれるわ」
「そうか、本願寺も終わりか‥‥‥」
「北伊賀の奴らはな、頭を失って、バラバラになっちまった。お陰で、わしはこうして、おぬしと酒を飲んでるんじゃが、あの時はわしもこれからどうしたらいいのか分からず、目の前が真っ暗じゃった。家族もみんな殺されちまったしな。死ぬのを覚悟で信長を狙ったんじゃが失敗した。道順は殺され、わしはやっとの思いで逃げ、ここに来たというわけじゃ。おぬしの仲間に入れてもらおうと思ってのう」
「盗っ人嫌えのおぬしが、盗っ人の仲間に入るのか?」
「今の世はな、武士が女子供を平気で殺す時代じゃ。忍びの者が盗っ人になろうと問題あるめえ」
「ほう、考えを変えたのか?」
「変えた。所詮、短え人生じゃ。面白おかしく生きた方がいいと悟ったわ。おぬしの事をふざけた野郎じゃと思っていたが、ようやく、わしにも、おぬしの生き方が分かって来た。こんな格好して、昼間から酒を食らって、娘たちをからかってヘラヘラしてるのも面白え。だがな、わしの目的はあくまでも信長を倒す事じゃ。信長から何かを盗むのなら加わるが、信長の敵から物は盗まん」
「ふん。その前におぬしに聞きてえ事がある。伊賀で聞こうと思ったが、場所柄を考えてやめたんじゃ」
「分かってる。ジュリアの事じゃろ?」
小太郎は酒を飲み干して、溜め息を付いた。
「どうして、ジュリアの後を追ったんじゃ?」
夢遊は小太郎のお椀に酒を注いでやった。
「すまんのう。わしはずっと、信長を見張ってたんじゃ。藤林長門に命じられてのう。長門が誰に信長暗殺を頼まれたのかは知らん。あんな奴に文句も言わずに従っていたわしが愚かじゃった。奴は湯舟の砦が落ちたら、どこかに消えちまったわ、わしらを見捨ててな。わしに信長の暗殺を命じておいて、裏では信長と通じていたのかもしれん」
「未だに行方知れずなのか、長門は?」
「完全に消えちまった。もしかしたら、死んだのかもしれん」
「わしは長門に会った事はねえが、どんな男なんじゃ?」
「どんな男と言われてものう、いつも、薄暗え部屋にいて、ハッキリと面を見た事もねえ。掟を破った者は必ず、殺すと恐れられていたからの。まともに顔を見る事もできなかった」
「そうか‥‥‥配下の者にも顔を見せんとなると余程の忍びじゃな。案外、この城下に潜んでいるかもしれんぞ」
「まさか‥‥‥」と一瞬、小太郎の顔が青くなった。酒を一口、飲むと、「脅かすな」と笑った。
「それで、ジュリアの方は?」と夢遊は聞いた。
「ああ。たまたま、夜中に摠見寺の普請場に行った時、天主の方から土を運んでるのを見つけたんじゃ。おかしいと思って土を調べてみると、その辺の土とは違う。そこで、しばらく見張っていたんじゃよ」
「それはいつの事じゃ?」
「去年の末じゃ。土は毎日のように運ばれ、摠見寺の普請に使われたんじゃ。信長が抜け穴を掘ってるに違えねえと思ったが、確信は持てなかった。抜け穴は天主と摠見寺をつないでるに違えねえと摠見寺を捜したが見つからなかった。思い違えだったかと諦めかけた頃、善次郎が殺されたんじゃ。善次郎が信長に呼ばれて、城内で仕事をしてたのは知ってたが抜け穴と関係あるとは思っていなかった。しかし、善次郎が殺されたと聞いて、わしはピンと来たんじゃ、何かあるとな。それで、善次郎の娘を見張った。思った通り、娘を狙ってる山伏がいたといわけじゃ」
「山伏を殺したのは、おぬしか?」
「そうじゃ。捕まえたが何も知らんので殺した」
「マリアの方もか?」
「ああ、わしの手下が殺った。しかし、奴ももういねえ」
「戦死したのか?」
「ああ。みんな、殺されちまったわ」小太郎は舌を鳴らすと酒を飲んだ。「わしはジュリアを追って雑賀に行き、孫一が動くのを待っていた。孫一がジュリアの話に乗って来れば、奴が黄金を盗んでる隙に、信長を殺ろうと思ったんじゃ」
「孫一が動く前に信長の方が先に動いたというわけじゃな」
「そうじゃ。わしはジュリアを雑賀に残したまま、伊賀に帰った‥‥‥別れがたかったがのう」
「別れがたかった?」
「いい年して、ジュリアに惚れちまったらしい」
「おぬしがジュリアに惚れたのか?」夢遊は急に腹を抱えて大笑いした。
「おぬしだって、わしの事を笑えめえ。聞いたぞ、小野屋の若女将に夢中だそうじゃの」
「まあな。最高の女子じゃ」
「ジュリアだって最高じゃ」
「若えし、日本人離れした顔してるからのう。おい、アソコの毛も赤えのか?」
「おう、柔らけえ赤毛じゃった‥‥‥足がスラッと長くてのう。腰がキュッとしまってるんじゃ」
「うむ、いい体じゃな‥‥‥残念じゃが、ジュリアは消えちまった」
「銀次から聞いた。わしも捜し回ったが無駄じゃった。一体、何者の仕業なんじゃ? まさか、信長に捕まったんじゃあるめえな?」
「その事は銀次に任せてある。わしは今、帰って来たばかりじゃ」
「そうじゃったな。アッ、そうじゃ、忘れておった。土産があったんじゃ」
小太郎は左手で脇差の柄(ツカ)を握ると右手で柄頭をはずして、中から紙切れを取り出した。
「土産じゃ」と得意気に差し出したのはジュリアが持っていた抜け穴の図面の写しだった。
「遅かったのう。伊賀に行く前に持って来てくれれば大歓迎じゃったが、抜け穴の事はもう調べたわ」
「ナニ、調べたじゃと? 穴の中に入ったのか?」
「入った。が、途中までしか行けなかった」
「クソッ! 先を越されたか。わしも信長の奴を殺そうと入ってみたが抜けられなかった」
「おぬしも入ったのか?」
「ああ、ここまでじゃった」
小太郎は図面の中の南蛮文字の所を示した。
「どうやって、池を渡った?」
「苦労したぜ。最初の池は何とか渡れたが、次の池は足場がなくてな。仕方なく、また戻って、奥の方に何かねえかと捜したら、うめえ具合に竹竿があった。孫一の奴が置いて行ったなと思って、そいつを使って、やっと渡ったんじゃ。一人で入るべきじゃなかったとつくづく思ったわ」
「弓矢の仕掛けはどうした?」
「仕掛けは分かったさ。またいで行けば大丈夫だとは思ったが、何かの弾みで飛び出して来たらかなわねえからな、竹竿で紐を押して、矢を全部出した」
「出る時にはちゃんと元に戻したんじゃろうな?」
「当然じゃ。信長の奴に気付かれたら、元も子もねえからな」
「それならいい」
「あの扉の仕掛けは分からねえ、どうするつもりなんじゃ? あれを何とかしねえと天主には行けねえぞ」
「分かってる」
「おぬしの事じゃ、何か考えてるんじゃろ?」
「いや。まだ、何も考えてはおらん」
「まあ、いい。とにかく、わしを仲間にいれてくれ。一人じゃどうしょうもねえ」
「いいじゃろう。だが、当分は仕事をやらん。のんびりしていろ」
「そうじゃな。まだ、懐は暖けえしな。一文無しになったら、よらしく頼むぜ」
小太郎はいい機嫌になって、鼻歌を歌いながら帰って行った。
小太郎が帰ると入れ違いに、職人姿の銀次がやって来た。
「あれが新堂の小太郎ですか?」
銀次は二階から大通りをフラフラ歩いている小太郎を見下ろしながら言った。
小太郎は道行く娘に、「セニョリータ、一緒に遊ぼうぜ」と大声で声を掛けていた。
「あいつ、大旦那様の真似ばかりしてますよ。信長じゃなくて大旦那様をずっと見張ってたんじゃないですか」
「放っておけ。ジュリアの事を奴に話したのか?」
「ええ。でも、抜け穴の事は話してませんよ」
「うむ。それで、何か分かったのか?」
「はい。ちょっと一杯いいですか?」
「ああ」
銀次は小太郎が置いて行った酒をお椀に注ぐと、一息で飲み干した。
「ホッ、うまい酒ですねエ」
「遅い春を謳歌してるんじゃと、あの馬鹿が。ジュリアに惚れたとぬかしおった。色惚けじゃな」
「そういえば、小野屋の女将さんが大旦那様の事をずっと待ってますよ」
「おお、そうじゃ。あの馬鹿が来たせいで、お澪殿の事を忘れてしまったわ。何が分かったんじゃ? 早く、話せ」
「はい。こいつはうめえ」と銀次はまた、酒を注いだ。
「酒は全部、おめえにやるから、早く話せ」
「はい。抜け穴の扉の鍵の事ですが、マリアも知りませんでした。鍵がないと扉が開けられないというと大口を開けて驚いてましたよ。それじゃア、黄金は取れないのって泣きつかれましてね。可愛い女子ですよ、マリアは。勘八が惚れるのも無理ねえですね」
銀次は酒を飲み干すと、また注いだ。夢遊がお椀を差し出すと、「大旦那様もいきますか?」と注いでくれた。
「マリアはいい女子です。色が白くて、顔もいいし、オッパイもピンと張ってて形いいんですよ」
「おめえ、マリアのオッパイ、見たのか?」
「ちょっと、汗を流してるとこを覗きましてね」
「このスケベ野郎が」
「アレ、大旦那様からスケベ呼ばわりされるとは思ってもいませんでした」
「馬鹿野郎!」と夢遊は銀次から酒のとっくりを奪い取った。「そんな事はいいから、肝心な事をさっさと言わねえか」
「えーと、マリアはね、鍵の事なんか、ほんとに知らないんですよ。それでね、マリアから親父さんが親しかった職人を紹介してもらったんです。そして、職人を調べてみたら、なんと、鋳物師(イモジ)が一人、善次郎が殺された同じ日に殺されてたんですよ。驚きましたね。多分、その鋳物師が鍵に関係してますよ。鋳型が残ってないかと捜しましたがダメでした。見つかりません」
「鋳物師も殺されてたのか‥‥‥」
「はい」と銀次は酒を飲み干した。「こいつはうめえな。俺なんか、こんなうめえ酒、滅多に飲めないっすよ‥‥‥その鋳物師ですけどね、善次郎の住んでた職人町じゃなくて、馬場の方に住んでたんで分からなかったんすよ」
「おめえ、酔っ払ったのか?」
「このくらいじゃ、酔わないっすよ。平気です。善次郎の足取りをちゃんと、もう一度、当たってみたんですよ。でも、善次郎から何かを預かったっちゅう者はいませんでした」
「善次郎の住んでた家は、今、どうなってるんじゃ?」
「殺しのあった家ですからね、未だに借り手なんていやしませんよ」
「よし、おめえ、さっそく、その格好のまま、その家を借りろ。そして、天井裏から床下まで、すべて捜してみろ」
「分かりました。あの、夫婦者を装った方がいいでしょ?」
「そうじゃな。その方が怪しまれんじゃろう。おめえ、誰か好きな女子がおるのか?」
銀次は照れくさそうにうなづくと、「実はおときなんで」と言った。
「ほう、おときか。うまく行ってるのか?」
「ええ、まあ。おときはほんとにいい女子なんすよ。おときの‥‥‥」
「一々、おときの事を説明せんでもいい。おときと一緒に暮らしていいから、絶対に鍵を捜し出せ」
「ありがとうございます」
「うまくやれよ」
「はい、大丈夫です。それと図面にあった南蛮文字も調べましたよ。セミナリオに行って聞いて来たんすよ。若い者がいっぱいいるんすけどね、みんな、頭がいいんすよ。たまげやしたね」
銀次は懐から走り書きした紙を出した。
「えーと、『M』はエーミと読んで、『J』はジェータと読むそうです」
「エーミにジェータか。どういう意味じゃ?」
「イロハのイと同じようにそれだけでは意味はないんすよ。南蛮文字もいくつか組合わさって意味のある言葉になるんだそうっす。ただ、何かの頭文字を表す時は一字でも使われるとか言ってやしたね」
「頭文字とは何じゃ?」
「何でも最初の文字を頭文字というそうっす。安土の頭文字はアで『A』と書くんだそうっす。何しろ、奴らの言う事は俺にはよく分かんねえんで」
「それで『エーミ』を頭文字にした物ってのは何じゃ?」
「ええと、頭にム、マ、メ、ミ、モがつく言葉だそうっす」
「ム、マ、メ、ミ、モ?」
「はい。マリアの頭文字は『エーミ』っす。そして、『ジェータ』の方はジだけっす」
「ジュリアの頭文字が『ジェータ』なんじゃな?」
「そうなんすよ。驚きやした」
「やはり、あの二人が鍵を持ってるという事じゃな?」
「そうなんす。そこで、俺は山に行って、マリアに聞いてみたんす。何も預かってはいないって言い張りやしたがね、荷物を全部、見せてもらいやした。マリアの奴、恥ずかしがってやしたけどね、下着までちゃんと調べやした。マリアの奴、色んな色の湯文字(腰巻)を持ってやしてね。驚きやしたよ」
「ほう、おめえの好きな色もあったか?」
「はい、ありやした。今度、おときの奴にも桃色のをさせようと思いやしてね」
「好きにしろ。で、マリアの荷物から何か出て来たのか?」
「それなんすよ。善次郎が彫ったというマリア観音があったんすよ。綺麗な観音様でしてね、思わず、うっとりしてしまう程なんす」
「おめえ、前にもそんな事、言ってなかったか?」
「はい。でも、前は湯文字まで調べませんよ」
「湯文字なんかどうでもいいわ。さっさと言わねえか」
「えーと、前に調べた時は鍵の事なんか知らなかったっすからね。今回は仕掛けがねえか、よーく見てみやした」
「ふむ、それで?」
銀次はお椀を夢遊に差し出した。夢遊は仕方なく注いでやった。
「なんと、仕掛けがあったんすよ」
「ナニ、あったのか?」夢遊は身を乗り出した。
「これです」と銀次は懐から布にくるまれた物を差し出した。
「この馬鹿野郎!」と夢遊は銀次の頭を殴った。
布の中には、確かに鍵が入っていた。
「すみません。早く知らせようと思ってここに来たんすけど、小太郎の姿を見たら、すっかり度忘れしました」
「うむ、まさしく、これじゃ。南蛮寺の鍵によく似てるわ。でかしたぞ、銀次」
「はい‥‥‥あのう、善次郎の家の件ですが、どうします?」
「なんじゃ?」
「それが見つかれば、あそこに住む必要はなくなったんでしょ?」
「それもそうじゃな‥‥‥まあ、いいわ。おときと一緒に暮らしてえんじゃろ。今回の褒美じゃ。しばらく、のんびり暮らせ」
「ありがとうございます」
「おい。抜け穴の図面の写しは持ってるか?」
「はい」と銀次は返事をしたが、酒のとっくりを抱えていた。
「おめえな、酒も程々にしねえとおときに嫌われるぞ」
「いえ、今日は特別ですよ。鍵を見つけたのが嬉しくって」
銀次の出した図面を見ると『M』の印のあるのは天主の下だった。
「なんてこった。こいつはあそこの鍵じゃねえ。多分、地下の蔵に入る鍵じゃろう。これがあっても、あそこの扉は開かねえわ」
「アッ、忘れてやした。ジュリアも同じような観音像を持ってるって、マリアが言ってやした」
「やはり、ジュリアを捜さなくちゃなんねえのか」
「ジュリアの方は手掛かりはまったくありませんよ」
「ありませんじゃねえ。二人であそこに住んでもいいから、二人でジュリアの行方を捜し出せ、絶対にじゃ。分かったな?」
「はい、お頭」
銀次はまた、殴られた。
「すみません、大旦那様」
謝りながらも、銀次はニコニコしながら酒を飲んでいた。そして、「新堂の小太郎っすけどね、小野屋の女将さんにちょっかい出してるみたいっすよ」と余計な事を言った。
「なんじゃと」と血相を変えて、夢遊は飛び出して行った。
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